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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)42号 判決 1980年5月27日

原告

東京芝浦電気株式会社

被告

特許庁長官

上記当事者間の昭和51年(行ケ)第42号審決取消請求事件について、当栽判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和51年3月2日、同庁昭和49年審判第10930号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

第2原告の請求の原因及び主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和41年12月8日、名称を「扇風機のガード着脱装置」とする考案(以下「本件考案」という。)につき実用新案登録出願し、昭和47年9月6日出願公告(実用新案出願公告昭47―29814号)されたが、同年10月23日株式会社日立製作所から登録異議の申立があり、昭和49年9月26日拒絶査定を受けた、そこで、原告は、同年12月25日審判を請求し、上記事件は同年審判第10930号事件として審理されたが、特許庁は昭和51年3月2日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は同月29日原告に送達された。

2  本件考案の要旨

(A)  前部外周に締付舌片を有する筒状部及び凹凸係合部を設けた電動機のフレームと、

(B)  該フレームの筒状部に嵌合され後ガードの脚を取付けるとともに前記凹凸係合部と対応する凹凸係合部を後面に設けた取付脚と、

(C)  前記フレームの筒状部に嵌合され締付舌片に係合する斜面を有する締付リングとを備え、

(D)  前記フレームの凹凸係合部と取付脚の凹凸係合部とを適合嵌合し、

(E)  かつ、締付リングを回動させることにより取付脚と締付舌片との間にその斜面を係脱するようにした

(F)  扇風機のガード着脱装置。

(別紙図面(1)参照ただし、アルフアベツトは分説の便宜上つけたものである。)

3  審決の理由の要旨

本件考案の要旨は、前項記載のとおりである。

ところで、本件考案の実用新案登録出願前出願公告された実用新案出願公告昭40―8183号公報(以下「第1引用例」という。別紙図面(2)参照)には、

(A)' 前方中央外周部にねじを刻設した軸受用突出部を設け、かつ前方端面外縁部に突起を設けた電動機外枠と

(B)' この外枠前方の軸受用突出部に後部保護枠を装置し前記電動機外枠の前方端面外縁部に設けた突起に係合した後部保護枠の脚部と

(C)' 前記電動機外枠の軸受用突出部外周に刻設したねじ部に螺合する単一のナツトを備え

(D)' 前記電動機外枠の前方端面外縁部の突起と後部保護枠の脚部とを係合させ

(E)' 前記単一のナツトを回動させることにより前記後部保護枠の脚部と電動機外枠の前方端面外縁部の突起を係脱するようにした

(F)' 扇風機保護枠の着脱装置

が記載されている。

そこで、本件考案と第1引用例記載の考案を対比すると、(A)と(A)'、(B)と(B)'、(D)と(D)'、及び(F)と(F)'、とは同一であるが、(C)と(C)'及び(E)と(E)'とにおいて本件考案がフレームの筒状部に嵌合され締付舌片に係合する斜面を有する締付リングを回動させることにより取付脚と締付舌片との間にその斜面を係脱するようにしたのに対し、第1引用例の考案は電動機外枠の軸受用突出部外周に刻設したねじ部に螺合する単一のナツトを回動させることにより後部保護枠の脚部と電動機外枠の前方端面外縁部の突起を係脱するようにした点で相違する。

この相違点についてさらに検討すると、筒状体の周面部の適宜位置にテーパーを有する突起を設け、前記筒状体の端面部に対向する蓋体の周縁部の適宜位置に設けた係止用爪体を突設し、それらの爪体を前記筒状体に設けた突起に係止することにより前記蓋体を前記筒状体の端面部に確実に接触させるようにしたものは従来周知((例えば甲第4号証刊行物、昭和40年6月30日、日刊工業新聞社発行機械設計データブツク第99頁第8図(以下「第2引用例」という。)参照))であり、この周知の爪体と突起の係脱装置を第1引用例記載の考案の単一のナツトによる締付装置に代えて設けることは本件考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者によつてきわめて容易に考案できたものと認める。

従つて、本件考案は実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4  審決を取消すべき事由

(1)  第1引用例の構成(A)'、(B)'、(D)'、(F)'が本件考案の構成(A)、(B)、(D)、(F)と同一であると認定した点について

本件考案は電動機フレームに設けた筒状部の前部外周に締付舌片を突出させ、締付リングを回動させてその係合斜面を後ガードの取付脚と舌片との間に楔状に係脱させることにより後ガードを電動機フレームにほとんどワンタツチで取付けることができるようにした構成並びに機能を要旨とするものである。従つて構成(A)に示される締付舌片は、本件考案の構成上きわめて重要な要件であるが、これを明らかに欠如している第1引用例の構成(A)'をもつて本件考案の構成(A)と同一であるとした審決の認定は誤りである。本件考案における電動機フレームに取付ける後ガードの位置決め手段は、電動機フレームに設けた凹凸係合部と後ガードの脚を支持する取付脚の後面に設けられた凹凸係合部との嵌合によつてなされるように構成されている。特にこの本件考案における取付脚は、締付舌片をかわすような位置に対向させて挿通し、筒状部に嵌合させるという構造をとるものであり、従つて構成(B)のごとく取付脚の後面に凹凸係合部を設けた本件考案の後ガードは、その着脱に際し、締付舌片に対する取付脚の挿通位置を定めれば、その後面の凹凸係合部もまた、電動機フレームの凹凸係合部に対向する。従つてあとは該脚を舌片越しに一挙に挿通すれば構成(D)のごとく両凹凸係合部は互いに適合嵌合し、後ガードの位置決めも確実に行なえるように構成したものである。これに対し、第1引用例のものは着脱に際し、脚部の挿通対向位置を定める締付舌片もなく、かつ前記構成(B)'、(D)'に示されるように後部保護枠の脚部自体を直接電動機外枠の突起に係合させるという構成に過ぎない。従つてこのような明確な相違を無視して両者同一であるとした審決の認定は誤りである。

なお、本件考案における後ガードの着脱機構は、取付脚及び締付リングをそれぞれ筒状部に挿通嵌合させた後、構成(E)のごとく取付脚と締付舌片との間に締付リングの斜面を係脱させることにより、電動機フレームに対し凹凸係合部を介して既に位置決めされている取付脚を上記フレームに押圧固定して取付けるという構成である。これに対し第1引用例における保護枠の取付機構は、電動機外枠に設けられた軸受用突出部の外周ほぼ全長にわたつてねじ部を刻設し、これに単一ナツトを螺合させるという構造であり、従つて後部保護枠の取付けに際しては、該保護枠をまず軸受用突出部に挿入して前記構成(D)'のごとく上記保護枠の脚部を電動機外枠の前方端面外縁部に係合させ、これを別途保持しながら単一ナツトをねじ部先端に嵌めた後、これを数回まわしてねじ部沿いに所定長螺合前進させ、ナツトが最終螺合位置に達した時にはじめて電動機外枠に対する脚部の締めつけ固定が完了し、取付けられるという構成である。

しかし審決は、このような螺合式単一ナツトによる第1引用例の取付機構に対しその構成(E)'において「単一ナツトを回動させることにより保護枠の脚部と電動機外枠の突起とを係脱させる」のごとく認定し、これを本件考案の前記構成(E)と強いて対応させているのは明らかに当を得ないものである。これと同様なことは、審決は「本件考案が……締付リングを回動させることにより取付脚と締付舌片との間にその斜面を係脱するようにしたのに対し、第1引用例の考案は……単一ナツトを回動させることにより後部保護枠の脚部と電動機外枠の……突起を係脱するようにした点で相違する」とし、両者の相違が単に締付リングか単一ナツトかの違いに過ぎないかのごとく認定して、以下第2引用例を引用し、本件考案との対比を行なつているが、そもそも第1引用例の構成(E)'における単一ナツトの回動と、本件考案の構成(E)における締付リングの回動とは、その対象とする目的、作用効果を異にしているのであつて、これを審決は同列にみなして敢えて対応させているところに論旨としての無理がある。

(2)  周知技術に関する認定並びにこれに基づいて本件考案がきわめて容易に考案できると認定した点

審決は「筒状体の周面部の適宜位置にテーパーを有する突起を設け、前記筒状体の端面部に対向する蓋体の周縁部の適宜位置に設けた係止用爪体を突設し、それらの爪体を前記筒状体に設けた突起に係止することにより前記蓋体を前記筒状体の端面部に確実に接触させるようにしたものは従来周知(例えば第2引用例参照)である。」と認定し、さらに「この周知の爪体と突起の係脱装置を第1引用例記載の考案の単一ナツトによる締付装置に代えて設けることは本件考案の属する技術分野における通常の知識を有する者によつてきわめて容易に考案できたものと認める。」と判断した。

しかし審決のこのような判断は、本件考案におけるガード着脱機構と第2引用例における係脱機構との技術思想の本質的相違に関する認定を誤つている。

(1) まず第2引用例の係脱機構に関する認定の誤りについて

審決が第2引用例により周知であるという係脱装置は、図示からも明らかなように筒状体に設けられたテーパー状突起と、蓋体に設けられた係止用爪体との係合によつて両部材同志を直接かつ相互に締めつけ固定させることを目的とする結合手段に過ぎない。さらに換言すればこれら両部材は、係合に際し、その各部材の内側対向面が互いに相寄る方向に接近して締めつけ合うように構成されたものである。この点については、審決も「爪体を……突起に係合することにより蓋体を筒状体の端面部に接触させるようにしたもの……」というとおり、蓋体の内側対向面が筒状体の同じく内側対向面すなわち端面部に接近し締付け固定し合うという構成そのものである。このことから第2引用例に示されるものはあくまでも係合関係にある2部材同志の結合、すなわちバヨネツト結合そのものであり、このようなバヨネツト結合においては係合に際し、両部材の上記内側対向面以外の面を利用して、係合以外の用途機能をもつ他の部材まで一緒に取付けるという構成並びに技術思想を見出すことはできない。

(2) 第2引用例を引用して本件考案の進歩性を否定した点について

物品の形状、構造又は組合わせに係る本件考案は、扇風機のガード着脱装置という第2引用例とはその技術分野を全く異にする物品を対象とし、その具体的な構成は(A)ないし(E)を要件とするものである。

すなわち構成(A)、(B)、(C)に示されるように「凹凸係合部と、前部外周に締付舌片を有する筒状部とを設けた電動機フレーム」と「フレームの筒状部に嵌合され、前記凹凸係合部と対応する凹凸係合部を後面に設けた取付脚」と「フレームの筒状部に嵌合され、締付舌片に係合する斜面を有する締付リング」とからなり、構成(D)、(E)のごとく両凹凸係合部を適合嵌合させるとともに締付リングを回動させることにより取付脚と締付舌片との間にその斜面を係脱させることによつて電動機フレームの筒状部に嵌合されるガード取付脚を着脱させるようにしたものである。

すなわち本件考案は締付舌片と締付リングとの係合に際し、これら2部材の係合部内側対向面以外の面、すなわち締付リングの外面で、係合以外の用途機能をもつ他の部材、すなわちガード取付脚を押しつけて電動機フレームに一緒に取付け固定するという構成を特長とするものであり、この点、筒状体と蓋体という係合2部材同志の結合自体を目的とする第2引用例のバヨネツト結合とは着目する技術思想を異にするものである。

これに対し審決が「周知の爪体と突起の係脱装置を第1引用例記載の……単一ナツトによる締付装置に代えて設けることは……きわめて容易に考案できる」と認定しているのは本件考案の着脱機構に対する技術的認識をいちじるしく誤つているといわざるを得ない。かりに審決がいうように第2引用例でいうところの周知のバヨネツト結合を第1引用例に転用するとすれば、それはガード取付脚を一方の部材として例えば電動機フレームの筒状部を他方の部材として両者を直接かつ相互に係脱させるという回動式係脱機構にならざるを得ないのであつてこのようなことは本件考案が着目するガード着脱装置の技術思想とは全く異なるものである。従つてこれを容易に転用できるとした審決の認定は明らかに誤りである。

(3)  本件考案独自の技術的効果を看過し、その進歩性を否定した認定の誤りについて

本件考案のガード着脱装置は、前記構成(A)、(B)及び(C)、(E)に示される回動係脱式着脱機構と、同じく前記構成(A)、(B)及び(D)に示される凹凸係合部による位置決め機構との組合わせによつて電動機フレームに対するガードの着脱を容易かつ確実に行なえるようにすることを目的とするものであり、後者によつて、筒状部へ嵌合させたガード取付脚の周方向に対する回動ないしずれを規制するための位置決めを行ない、また前者によつてこの状態におけるガード取付脚の筒状部軸方向に対する動きないしずれを規制し、かつ締付け固定するための「仮止め」及び「僅かな回動」を行なわせることによつて前記目的を達成できるようにしたことを特長とするものである。

すなわち、この後者の位置決め機構については、前記構成(A)中に示される「電動機フレームに設けた凹凸係合部」と同じく構成(B)中に示される「取付脚の後面に設けた凹凸係合部」とで構成され、かつこれら凹凸係合部を適合嵌合させるという構成(D)からなるもので、電動機フレームの筒状部に嵌合させたガード取付脚は、先ずこの位置決め機構によつてその周方向に対する回動ないしずれを規制した「位置決め」がなされる。また、この状態において、前記着脱機構の締付リングをガード取付脚に当たるまで、すなわちその最終取付固定位置まで一挙に嵌挿することによつてガード取付脚の周方向並びに筒状部軸方向に対する動きないしずれを同時に規制する「仮止め」を行なう。さらにこのように最終取付固定位置に仮止めされたガード取付脚に対しては締付リングの「僅かな回動」操作によつてその取付け固定は直ちに完了する。

以上のように本件考案のガード着脱装置は、電動機フレームと、ガード取付脚後面に設けられ、かつ互いに適合嵌合してガードの周方向に対する「位置決め」を行なう凹凸係合部による位置決め機構と、電動機フレームの筒状部に嵌合され、かつ前記位置決めされたガード取付脚をその最終取付固定位置において「仮止め」し、かつ「僅かな回動」操作によつてフレームに対する締めつけ固定を直ちに完了する締付リングを具備した着脱機構との組合わせによつて、この種扇風機におけるガード着脱は、単一ナツトの螺合締付けによる従来のものに比し、はるかに容易かつ確実に行なえるという本件考案独自の技術的効果がある。また、本件考案は、その出願明細書にも従来例として挙げているように扇風機のガード着脱装置として第1引用例のような単一ナツトの締付けによるものの難点を解消するとともに、後ガードの取付脚後面に設けた凹凸係合部と電動機フレームに設けた凹凸係合部とを嵌合させ確実な位置決め効果をもたせるべく前記(A)ないし(F)に示すごとき構成をとり、これによつて以下に列挙するような顕著かつ独自の効果をあげることができたものであり、審決はこれらの点を看過し、引用例からきわめて容易に考案しうるとしたことにも重大な誤りがある。

(1) 締付リングのわずかな回動により電動機フレームに対する後ガードの着脱がきわめて容易に行なえる。

(2) 後ガードの着脱が単一ナツトを数回回転させて締付けるものに比し迅速に行なえる。

(3) フレーム筒状部に後ガードの嵌挿後、締付リングを嵌挿することによつてフレームに対し凹凸係合部を介して嵌合し、位置決め状態にある取付脚を仮止め的に押え、その状態でリングを回動することによりワンタツチ式に後ガードを固定できる点、着脱操作がきわめて容易である。

(4)  締付リングの係合斜面がガード取付脚と締付舌片との間に楔状に圧入されガードが常に所定の位置に確実かつ容易に取付けられる。

(5)  締付リングの筒状部への嵌挿時、リング中空部を介して締付舌片の位置を見ながら容易に挿入操作ができる。

(6)  扇風機の掃除、分解、梱包、包装、組立てが簡単に行なえる。

(7)  単一ナツト締付式のもののようにねじ切り加工を必要としないためコストを低減できる。

第3被告の答弁及び主張

1  原告の請求の原因及び主張の1ないし3を認め、4を争う。

2  原告の主張4の(1)について

(1)  第1引用例(A)'の「前方中央外周部にねじを刻設した軸受用突出部を設け、かつ前方端面外縁部に突起を設けた電動機外枠」とは、前部外周にねじを有する筒状部及び凹凸係合部である突起を設けた電動機フレームの意味である。

すなわち、第1引用例に示す筒状部及び凹凸係合部は本件考案の筒状部及び凹凸係合部と同一である。更に第1引用例に示すねじと本件考案の締付舌片は、同種の機能を営む点において実質的に同一の構成である。

(2)  原告は、本件考案(A)、(B)、(D)の構成において、本件考案における後ガードの位置決め手段は、第1引用例に示す後ガードの位置決め手段と相違する旨主張する。

しかしながら、本件考案においては、原告が主張するような「締付舌片に対する取付脚の挿通位置を定めれば、その後面の凹凸係合部もまた電動機フレームの凹凸係合部に対向する」因果関係はない。従つて、このような原告の主張は全く根拠がない。すなわち、原告主張の「締付舌片に対する取付脚の挿通位置を定めれば、」という後ガードの取付態様を取るためには、例えば、本件明細書の第2図についていえば、"取付脚19の切欠き21と凹部28との正面投影図における位置関係と"、"電動フレーム1側の締付舌片13と凸部29との正面投影面における位置関係"を両者一致させるとともに取付脚19の切欠き21と締付舌片13とをほとんど同じ大きさにすること等の規定が少なくとも必要である。しかし、本件考案の構成要件には、そのような規定がない。本件考案の構成(A)、(B)では、例えば、"取付脚19側の欠き21と凹部28との位置関係と"、"電動機フレー1側の締付舌片13と凸部29との位置関係"が一致しないということがあり得る。このような場合には、後ガードの着脱に際し、取付脚19の切欠き21の挿通位置を定めて取付脚19を筒状部2に挿入しても、電動機フレーム1の凸部29に取付脚19の凹部28が対向しないので、このままでは凹部28を凸部29に嵌合することはできない。従つて、取付脚19の凹部28を電動機フレーム1の凸部29に嵌合するためには、取付脚19の凹部28が電動機フレーム1の凸部29の位置に合うまで筒状部2を中心として取付脚19を回動させる必要がある。また、取付脚19の切欠21は電動機フレーム1の締付舌片13よりもはるかに大きくしても、本件考案上何ら支障はないのであるが、このような場合は切欠21が締付舌片13を通過してもフレーム1の位置決めに役立たないことはいうまでもない。

このように、「締付舌片に対する取付脚の挿通位置を定めれば、その後面の凹凸係合部もまた電動機フレームの凹凸係合部に対向する」という原告の主張は本件考案から逸脱した考えに基づくものであり、誤つた主張である。

(3)  原告は、審決認定の(E)'と(E)が相違しているとした点に関し、(E)'と(E)を強いて対応させたところに、審決の論旨に無理があると主張している。

第1引用例の(E)「前記単一のナツトを回動させることにより前記後部保護枠の脚部と電動機外枠の前方端面外縁部の突起を係脱するようにした」とは、単一ナツトを筒状部のねじに螺合回動させることにより、ナツト裏面と電動機フレームの間隔が筒状部のねじとナツトのねじの作用で変化し、両者の間におおかれた後部保護枠の脚部を押圧緊締したり、弛緩したりして係脱するようにしたという意味である。

一方、本件考案の構成(E)は、締付リングを回動させることにより、締付リングの裏面と電動機フレームの間隔が締付舌片と締付リングの斜面の作用で変化し、両者の間におかれた取付脚を押圧緊締したり、弛緩したりして係脱するようにしたものである。

審決は、このような点を促えて、(E)'(E)を対応しているのであつて、審決の論旨に何ら無理はない。

3  原告の主張4の(2)について

原告の4の(2)の主張は、審決の趣旨を十分理解ししていないか、あるいは曲解したものである。

審決の趣旨は、公知の第1引用例に対する本件考案の差異がナツトによる締付装置に代えて第2引用例に示す周知の爪体と突起の係脱装置を用いた点にあるに過ぎず、この点は当業者がきわめて容易に考案できるところであるから実用新案登録を受けることができないというにある。

バヨネツト機構が周知技術であることを示すために第2引用例を挙げた趣旨は、第2引用例に示される筒状容器の蓋締付け構造に限定された使用方法のみが周知であることをいおうとしたものではないことは審決の全趣旨に照らせば容易に認識されるところである。その点の周知状況を明らかにするために新たに乙第1号証及び乙第2号証を提示する。

乙第1号証及び乙第2号証の場合にはバヨネツト機構は、ナツトの一般的使用方法とまつたく同じ目的、つまりバヨネツト機構以外のものである本件考案の後ガードに相当する部材を締付ける目的で使用されている。これらのようにバヨネツト機構はバヨネツトのもつ早締めの機能を生かしながら、ナツトのようなねじ機構と同じような目的に広く使用されているのであつて、しかもそのことは周知である。

本件審決は、このような状況のもとにおいてなされたものであつて、従つて第1引用例に示す扇風機において、後部保護枠の位置決めの構成を持ちかつナツトにより着脱するものが公知である状況で、単にナツトに代えて周知のバヨネツトを用いることは当業者が容易になし得ることに過ぎないと判断したものである。

4  原告主張の本件考案の効果について

(1)  原告が4の(3)の(1)、(2)、(4)及び(7)で主張する効果は、第1引用例における単一ナツト式締付リングに代えて、第2引用例、乙第1号証、乙第2号証に示される周知のバヨネツト式締付リングを用いることにより、当然生ずる技術的効果にほかならず、扇風機のガード着脱装置に用いたことによる特有の効果もないので本件考案独自の技術的効果とは認められない。

(2)  原告が4の(3)の(3)で主張する「仮止め」の効果なるものは、本件の明細書中にもなく、審査の経過、審判の段階においても主張されなかつたものである。このような経過からみても、そもそも「仮止め」の効果なるものは、苦しまぎれの作り事にすぎないことは明らかである。

また、原告は、本件考案において、凹凸係合部を要件とする位置決め機構が、扇風機の組立作業のためのものであるかのように主張するが、この主張は誤りである。本当の凹凸係合部の効果は、扇風機として使用するときに、振動あるいは外力によつてガードが円周方向に回動することを防ぐことにある。

仮に、本件考案において、原告の主張するような「仮止め」の効果があるとしても、そのような効果は乙第2号証のものにおいても存するものであり、そのような効果は何ら本件考案を新規な技術として、あるいは本件考案に特有な効果として認められ得ないものである。

(3)  原告は、4の(3)の(5)で、「締付リングの筒状部への嵌挿時、リング中空部を介して締付舌片の位置を見ながら容易に挿入操作ができる」と主張する。

しかし、第1引用例においては、そのような位置確認をする必要は全くなく、位置確認の必要が生じたのは、むしろ本件考案がバヨネツト式締付リングにしたためであるから、原告主張の効果は、本件考案に特有の優れたものであるとすることはできない。

また、このようなことは周知のバヨネツト式係合機構においても行なわれていることであり、この点からも本件考案の特有の効果とは認められない。

(4)  原告が4の(3)の(6)で主張する効果について

一般に、扇風機の分解、組立は、頻繁に行われなく、年に1回が普通である。すなわち、使用期間の初めに、梱包、包装を解いてガードの組立をし、使用期間の終りにガードの分解をして梱包、包装する。このガードの組立、分解作業は、一刻を争う程、急を要するものでもない。このように、扇風機というものは、簡単、かつ迅速な分解、組立が特に必要とされるものではない。

また、簡単、かつ迅速に行なえることが、扇風機にとつて、他の製品、例えば、ブンゼンバーナの分解、組立には見られない格別な有用性をもたらすとも考えられないので、原告のいうような簡単な分解、組立は、扇風機固有の技術的効果とは到底認められない。

第4被告の主張に対する原告の反論

本件考案のガード着脱装置は構成(A)ないし(F)からなり、特に構成(A)の「締付舌片を有する筒状部と、凹凸係合部とを有する電動機フレーム」に対し、構成(B)の「電動機フレームの筒状部に嵌合され…るとともに前記凹凸係合部と対応する凹凸係合部を後面に設けた取付脚」を筒状部の前記舌片越しに嵌挿することによつて両凹凸係合部を適合嵌合させ、ガードの周方向に対する位置決めをまづ行ない、この周方向位置決め状態をそのまま維持するために、ガード最終取付位置まで締付リングを一挙に嵌挿する、いわゆる「仮止め」によつて前記ガード取付脚の筒状部軸方向に対するずれをも同時に規制するという位置決め機構と、その後、直ちに行なう締付リングの「僅かな回動」による回動係脱機構との組合わせによつてガード取付脚を電動機フレームに対し迅速に、しかも容易かつ確実に着脱できるようにした事を特長とするものである。

これに対し第1引用例は、電動機外枠に対し、後部保護枠の脚部を係合させる、いわゆる周方向に対する位置決め機構は一応認められるが、この状態において軸方向に対するずれをも同時に規制するという「仮止め」を含む本件考案の重要な構成並びに効果に相当する位置決め機構は明らかに具備していない。

本件考案と第1引用例とは少なくともこのような顕著な相違があるにも拘らず、審決は、両者の相違として爪体と突起との係脱による回動式係脱機構か、ねじ部に螺合する単一ナツトによる締付機構かの相違に過ぎないとした点に、第1の誤りがあり、また、さらに第2の誤りとしては、第2引用例に示される周知の爪体と突起との係脱装置を第1引用例に記載された単一ナツトによる締付装置に代えることは容易になし得るとした点にある。

すなわち、第2引用例はバヨネツト結合そのものであり、従つて審決におけるその引用がいかに例示的であるとはいえ、これを引用している以上、その範囲を越えるもの、すなわち「係合に際し、係合部内側対向面以外の面を利用して、係合以外の用途、機能をもつ他の部材を一緒に取付ける」という技術思想までも含むバヨネツト機構を引用したものとは到底認識し得ない。

これに対し被告は、審決で引用したバヨネツト機構が周知技術であることを立証するためとして、乙第1号証並びに乙第2号証を提示し、これに基づいて審決における認定の妥当性をるる主張しているが、これらはもともと審決時には引用されず本件訴訟において全くあらたに提示されたものである。もちろん、これら各号証の提出が、あくまでも審決書記載の事実から同一性をもつて充分認識し得る範囲の事柄を立証するためのものならばいざ知らず、明らかに第2引用例の範囲を越えるもの、言い換えれば、これなくしては主張、立証し得ない事柄を補充するがごとき意向をもつて提示された乙第1号証並びに乙第2号証に基づく被告の主張は、本来、認められるべきものではない。

以上のことから第1引用例には、本件考案のごとく後ガードを電動機フレームに取付けるに際し、ガード取付脚をその最終取付位置において周方向並びに筒状部軸方向に対するずれを同時に仮止めすることにより、この種扇風機におけるガードの着脱を迅速に、しかも容易かつ確実におこない得るように構成するという技術思想は見出し得ない点、また、第2引用例のバヨネツト機構には、これを第1引用例の締付装置に転用すれば本件考案の着脱装置が容易が考案できると認め得るに足る根拠はなく、従つてこれらの点を看過して本件考案が実用新案法第3条第2項の規定に該当するとした審決は誤りである。

理由

1  原告の請求の原因及び主張の1ないし3は、当事者間に争いがない。

そこで、審決に、これを取消すべき瑕疵があるかどうかについて考える。

2  原告は、審決が本件考案と第1引用例記載の考案とを対比して、(A)と(A)'、(B)と(B)'、(D)と(D)'、及び(F)と(F)'、とは同一であるとしたことを非難し、先ず、本件考案の構成(A)に示される締付舌片は、本件考案の構成上きわめて重要な要件であり、これを欠如している第1引用例の構成(A)'をもつて、本件考案の構成(A)と同一であるとした審決の認定は誤りであると主張する。

なるほど第1引用例の電動機外枠には「締付舌片」なるものはない。しかしながら、第1引用例のものは、ネジ5にナツト10を螺合させることにより、後部保護枠の脚部8を着脱自在に締付けるようにしたもので、係止用部材として、本件考案の締付舌片に相当するネジ5と本件考案の締付リングに相当するナツト10を有しており、審決はこの関連において、本件考案の構成要件(C)、(E)と第1引用例の構成(C)'、(E)'との構成につき「本件考案がフレームの筒状部に嵌合され締付舌片に係合する斜面を有する締付リングを回動させることにより取付脚と締付舌片との間にその斜面を係脱するようにしたのに対し、第1引用例の考案は電動機外枠の軸受用突出部外周に刻設したねじ部に螺合する単一のナツトを回動させることにより後部保護枠の脚部と電動機外枠の前方端面外縁部の突起を係脱するようにした点で相違する。」として実質的に本件考案の構成要件(A)と第1引用例の構成(A)'の異同について判断しているのであつて、審決の措辞はいきなり(A)と(A)'を同一であるとした点において簡単すぎるきらいはあるが、その認定をもつて誤りとすることはできない。

本件考案において、後ガード17をフレーム本体に取付ける場合は、前カバー10の凸部29に取付脚19の凹部28を嵌合させて位置決めをする(成立について争いのない甲第2号証一本件実用新案公報一第3欄第18行ないし第24行)のであり、一方、第1引用例において後部保護枠7(本件考案の後ガードに相当する。)を電動機外枠(外筐)1に取付ける場合は、外枠1の前部端面外側に放射状に形成した溝6に複数個の脚部8を係合して位置決めするものであつて(成立について争いのない甲第3号証一第1引用例一左欄末行ないし右欄第2行)、扇風機の後部保護枠取付けの位置決めにおいて本件考案のように凸部29と凹部28の嵌合によるか、第1引用例の溝6と脚部8の係合によるかは、その作用効果において異なるところなく、両者の差異は構造上の微差にすぎず、従つて、審決が本件考案の要件(B)、(D)と第1引用例の構成(B)'、(D)'が同一であるとした認定には誤りはない(なお、審決は第1引用例の構成(B)'において、電動機外枠の前方端面外縁部に設けた「突起」に後部保護枠の脚部を係合させるように言つているが、甲第3号証の前掲記載部分により、上記「突起」は「溝」の誤記であるものと認める。)。

原告は、本件考案においては、後ガードの着脱に際し締付舌片に対する取付脚の挿通位置を定めれば、その後面の凹凸係合部も電動機フレームの凹凸係合部に対向し、あとは取付脚を舌片越しに一挙に挿通すれば両凹凸係合部は互いに適合嵌合し、後ガードの位置決めも確実に行なえるのに、第1引用例には、脚部の挿通対向位置を定める締付舌片はないと主張する。しかし、本件考案において、締付舌片に対する取付脚の挿通位置を定めれば、その後何らの位置決めをすることなく、電動機フレームと取付脚の各凹凸係合部が必然的に適合嵌合する旨の記載は本件明細書中にはなく(むしろ、位置決めは凹凸係合部28、29によつてなされる旨の記載一本件公報第3欄第22行ないし第25行、第4欄第24行ないし第27行一がある。)、本件考案に係る扇風機において、電動機フレームと後ガードとが上記のように嵌合される位置に各凹凸係合部を配置して設計することはできるであろうが、原告が主張するような効果は、本件考案の構成から必然的に出てくるものとはいいがたく、このことを前提とする原告の前記主張は理由がない。

3  原告は、第1引用例の構成(E)'における単一ナツトの回動と、本件考案の構成(E)における締付リングの回動とは、その対象とする目的、作用効果を異にしているのに、審決はこれを同列にみなして敢えて対応させており、論旨に無理があると主張するが、第1引用例の考案も本件考案もともに、扇風機保護枠又は後ガードの脚部を電動機外枠又は電動機フレームに対して着脱可能に装置するという点では何ら変りはないのであるから、審決の論旨に無理があるとすることはできない。

4  原告は、本件考案は締付舌片と締付リングとの係合に際し、これら2部材の係合部内側対向面以外の面、すなわち締付リングの外面で、係合以外の用途機能をもつ他の部材、すなわちガード取付脚を押しつけて電動機フレームに一緒に取付け固定するという構成を特長とするものであり、この点、筒状体と蓋体という係合2部材同志の結合自体を目的とする第2引用例のバヨネツト結合とは着目する技術思想を異にしているのに、審決は第1引用例記載の単一ナツトによる締付装置に代えて第2引用例を用いることができるとしたが、この認定は明らかに誤りであると主張する。

しかしながら、審決は、いわゆるバヨネツト結合は第2引用例記載のように、従来周知であり、このバヨネツト結合を第1引用例記載の考案の「単一のナツトによる締付装置」に代えて設けることは、当業者にとつて極めて容易であると言つているのであり、第1引用例のものは単一のナツトの締付けにより、原告の表現を借りれば、「係合以外の用途機能をもつ他の部材」、すなわち脚部8を電動機外枠に取付け固定するものであるから、審決が第1引用例の単一のナツトによる締付けに代えて第2引用例記載のバヨネツト結合をもつてすることが容易と言つている場合には、そもそも第2引用例に係合以外の用途機能をもつ他の部材をも取付固定するという思想が含まれているかを問題とする余地はないものといわなければならない。脚部の取付固定を単一のナツトの締付けで行なうのに代えて、周知のバヨネツト結合をもつてすることが容易でないとする証拠はないのみならず、成立について争いのない乙第1、2号証(1930年及び1908年各特許された米国特許明細書)によれば、バヨネツト結合において、直接係合自体にあずからない部材をも取付固定することが本件出願前周知であつたことが認められる(原告は、乙第1、2号証は審決には引用されず、本件訴訟においてあらたに提示されたものであるから顧慮すべきでない旨の主張をするが、バヨネツト結合に関する周知技術の立証としてならこれを顧慮して差支えない。)。原告の主張は理由がない。

5  原告は、本件考案のガード着脱装置は、構成要件(A)、(B)及び(C)、(E)に示される回動係脱式着脱機構と、構成要件(A)、(B)及び(D)に示される凹凸係合部による位置決め機構との組合わせによつて電動機フレームに対するガードの着脱を容易かつ確実に行なえるようにすることを目的とするものであり、後者によつて、筒状部へ嵌合させたガード取付脚の周方向に対する回動ないしずれを規制するための位置決めを行ない、また前者によつてこの状態におけるガード取付脚の筒状部軸方向に対する動きないしずれを規制し、かつ締付け固定するための「仮止め」及び「僅かな回動」を行なうというような顕著な効果を有するものであると主張する。

しかしながら、第1引用例も単一ナツト式着脱機構及び溝と後部保護枠の脚部による位置決め機構の組合わせによつて、電動機外枠に対する後部保護枠の着脱が容易かつ確実に行なえるようにしたものであり、ただ、その締付手段が単一ナツトであるため、本件考案のような取付脚を締付リングにより筒状部へ原告のいう「仮止め」するという効果を奏することは期待できないが、そのような「仮止め」の効果は、前記乙第1、2号証にみられるように、周知のバヨネツト結合が本来具有する作用効果にすぎず、これを本件考案がバヨネツト結合を採用したことによる特段の効果ということはできない。

原告が第2、4、(3)、(1)ないし(7)で主張するような作用効果もバヨネツト結合が本来具有する作用効果であつて、本件考案がバヨネツト結合を採用したことによる、通常のバヨネツト結合が有するのとは異なる特段の作用効果ではないと認められる。

6  上記のとおりであつて、原告の主張はいずれも理由がなく、審決にはこれを取消すべき瑕疵が見出せないから、原告の請求を棄却し、訴訟費用は敗訴の当事者である原告に負担させることとして主文のとおり判決する。

(小堀勇 高林克巳 舟橋定之)

<以下省略>

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